C75の新刊で、antipastoの本第一弾です。
*「Vie Durant*undo~ouverture」
(2008.12.30発行/P36/A5/オフ/イベント頒布価格300円)
コミック(榊空也さん)+小説(高橋)+キャラ紹介。
吸血鬼の始祖ファウストの子・ヴァイによって吸血鬼になった少年・時影(じぇい)とその仲間たちの長い長い物語。
吸血鬼の希望といわれる「マザー」という存在を探すために、楽団「デュラン」として、世界を彷徨う時影たち7人の吸血鬼のお話です。
かつては商業作品「Vie Durant」としてドラマCDやDVDがでてました。
それのインディーズ版にして、公式作品です。
高橋は全体の設定や小説やテキストを担当しています。
antipastoの活動については、antipastoにお問い合せください。
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*商業時代の商品
*「プリンスノワール・最後の日」本文より抜粋
刻は真夜中。
人々はいまは眠りつき、夢の中にいる頃。
だが、彼ら闇の眷属にとっては我が時間。
彼ら、吸血鬼にとっては。
蝋燭の灯りが、寝台に寝かされた少年の姿を照らす。
夜の闇の中でも、輝く金髪を持っていた。
肌は褐色。
瞼は閉じられているので、瞳の色は今はわからない。
次にその瞳が開かれる時、その色は、きっと人ではない色をたたえていることだろう。
目を開けば、だが。
「ふうん……」
瑛《えい》が腕を組んだ。
そして、眠っている少年の顔を覗き込んだ。
「なかなか綺麗な顔してるじゃない。だけど、まあ、俺のほうがいい男だけどね」
「まったく、瑛ときたら」
そうぼやいたのは弑《しぃ》だった。
しかし、瑛の言葉は嘘ではない。
色白の端正な顔立ち。目は切れ長で、顔全体から繊細な美を感じさせる彼だった。
いにしえの物語に出てくる貴公子のような、そんな印象を受ける。
そんなクラシカルな美をもっているくせに、瑛はしゃべり出すと陽気な性格が表に出て、その美を愛嬌のあるものに変える。
「まあ、でもヴァイ様が気に入ってるわけだから。こいつだってそれなりのもんだよな。な、傳英《でぃ》?」
「ええ……プリンスノワールの存在は、以前からヴァイ様の耳にはいっていました」
傳英はそう答えた。
プリンスノワール。
遠き東方の地を騒がす盗賊の一味のリーダー。
黒太子(こくたいし)とも呼ばれるそのリーダーは、枯れた大地を焦がす太陽の光をもはねのけるような金髪を持ち、そして神秘的な褐色な肌を持った若者だと言われていた。
出自は、誰も知らなかった。
どこかの小さな王国の継承者の落とし胤(だね)という話もあったし、ロマの一族の捨て子だという噂もあった。つまり、本当のところは誰も知らない。もしかしたら、彼自身も知らないのかもしれない。
まだ十代という若さで、あっという間に盗賊団をまとめ上げた。
彼の部下たちは、みな彼よりも年上の屈強な男ばかりだと言う。それらの部下を軽やかに使い、大胆不敵な手段で、何もかもを手にいれる。東方を旅するキャラバンの間で恐れられていた。
傳英が、黒太子の話を聞いたのは、ヴァイからだった。
敬愛し尊敬するヴァイ。そして、父なるヴァイ。
「ヴァイ様は、その者が欲しいのですか?」
いつかの夜、ヴァイの部屋で、傳英はそうヴァイに尋ねたことがあった。
広い屋敷の奥深くにヴァイの部屋はあった。
ヴァイは愛用の椅子にゆったりと腰をかけている。
傳英は立ったままだった。
「そうだね……」
物憂げにヴァイは答えた。
「では、私が連れてきます」
傳英はそうはっきりと言った。
これまでもそうだった。
傳英は、ヴァイの気に入りそうな少年を言葉巧みに引きよせ、ヴァイに捧げてきた。
彼が、おびき寄せ捧げた少年は、何人になるだろう。
傳英も、ヴァイによって吸血鬼になった一人だった。
人間だった頃のことは覚えていない。
そんなことは、今の傳英にとってどうでもいいことだが、ひとつだけ残念に思っていることがある。
ヴァイに初めて会った時の記憶も、その消え去ってしまった記憶のなかにあることだ。
多分、普通の少年だったと思われるその時の自分が、ヴァイと初めて対面した時、どう思ったのか。
恐怖か。
畏怖か。
それとも、美か。
時々、傳英はそのことが気になる。
傳英は、古い椅子にもたれるように座っている父なるヴァイを見やる。
傳英に吸血鬼としての生を与えた親ともいえる存在がヴァイだ。
だが「父」という言葉とはうらはらに、ヴァイは若く美しい青年の姿をしている。
なめらかな肌と、その肌を飾る金髪と、鋭い視線を放つ瞳。
時折、ヴァイはその見た目の若さには、似つかわしくない老成したような表情を見せる時がある。
ヴァイは、今の傳英には想像できないような長い長い時間を生きていた。