SCC21で発行する新刊のお知らせです。
*「レディオスター(もしくは王子様でお姫様)
(A5/88P/オフ/¥600)
声優業界ものの百合です。いつものように糖度低め。
音響会社でバイト中のフリーターの佐登(さと)。
仕事は事務や雑用なのだけど、成り行きで新番組アニメの宣伝ラジオを台本を書くことになって。
パーソナリティは、憧れの女性声優・明良(あきら)だった……。
もう一人のパーソナリティ歌音(かのん)とおない年ということで、親しくなる佐登。
いつもよりちょっと長い小説になりましたが、重い内容はなく、青春ものっぽい感じです。
登場人物はほとんど女性のみ。
本文サンプルはpixivにもあげてありますが、冒頭は下記からどうぞ。
「SCC21新刊「レディオスター」サンプル」/「明可」の小説 [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1000193
装丁は、空野掴さんにお願いしました。
※本文冒頭より
私の王子様は画面の向こう。
一週間に一回だけ会えるの。
「佐登ちーん! 台本プリントアウトできてるぅー?」
「あっ、い、今やってます」
「なるはやで五部お願いね」
「は、はいっ」
地下鉄駅から徒歩十分、雑多にビルや古い商店が立ち並ぶその一角に田中佐登の職場、正確に言えばアルバイト先はあった。
一階は老夫婦が営むお茶屋さんが入っている細っこい古いビル。その三階にある「ビックフォレストスタジオ」。
今、社内にいるのは佐登と先輩の古暮有香のみ。
というか、普段からいるのはこの二人のみである。
……ええと、この台本は二十時からの収録ので……。
佐登は、壁に貼り付けてある大きなホワイトボードを見た。そこには一ヶ月の予定が書き込めるようになっている。
今日の日付のところには赤い色で「20:00~ ムーン#15」と書かれていた。
夜八時から「ダークムーンラジオ」の第十五回の収録があるという意味。
佐登はレーザープリンタが問題なく働いているのを見つつ、ちらりと腕時計に目をやる。
五時四十五分。
収録が始まるまでまだまだ時間はある。だけど佐登のバイトは六時まで。
だから、有香はそれまでにやっておいてという意味で「なるはや」と言っていたのだ。
ここでアルバイトを始めて、もう四ヶ月。
有香の指示することは、だいたい覚えた。
ーー最初はどうなるかと思ったけど……。
子供の頃から、自分のドンくささには自覚はあった。
だから専門学校を卒業した時に就職という波に乗り損ね、アルバイト生活を続けている。
ここの会社の前は、輸入雑貨を取り扱うネットショップを経営する会社でバイトをしていた。主な仕事はお客さんからの問い合わせへの返信と発送準備。
薄暗い倉庫でもくもくと荷物を詰めて、クロネコのおじさんに渡す仕事は嫌いじゃなかった。
あまり人に接することが好きじゃない佐登にとっては、とても気楽だったのだ。
だがそんな居心地のいい職場は、ある日突然無くなってしまった。
潰れたのだ。不況って怖い。
で、まあいろいろ探しているうちに行き着いた次のバイト先がこのビックフォレストスタジオだった。
小さな音響会社だった。
「有香さん、これ、できました」
「あ、さんきゅー」
それぞれクリップで留めた台本を有香に渡した。
「じゃあ、私、ちょっとブースの掃除してきます」
「あ、もう上がりでしょー?」
「昨日もしたので、軽くです」
「んじゃ、よろしく~」
その時、有香の机の上の電話がけたたましく鳴る。
すかさず有香がその電話を取った。
「はい、ビックフォレストスタジオですー」
その声を聞きながら、佐登はフロアの一角にある収録ブースの重いドアを開ける。
狭い狭いブースだ。デスクがあって四つの椅子が置いてあるけど、大人が四人はいったら、けっこう息苦しい気がする。
化学ぞうきんで、佐登はそのテーブルを拭いた。
有香に言ったとおり、昨日も掃除しているから、たいして埃もたまっていない。
ーーでもこれやったら、丁度六時だし。
時給で貰ってるからギリギリまで働かないと申し訳ない気がして。