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あしたはそのまま青い空(1)

 ざざざぁっと秋の風が吹く放課後だった。
 明窓女学院高等学校の敷地の片隅にその建物はある。
 文化系サークルのクラブハウス、通称「文化棟」。
 敷地の北側は、すこし土手になっており、その文化棟を見下ろすことができた。
 ソラはそこにたっていた。
 濃い茶色のジャンパースカートに紺色のソックス。鞄は教室に置いてきた。
「よ、よし」
 ソラは一人で頷いて、その土手を降りていった。


     その部屋の扉をノックすると、
「どうぞー」
 と、のんびりした声が聞こえた。
 文化棟の二階。古い階段を登ってすぐ左側のとびら。
 ノックする前に、ソラは何度もその扉の横にかかっている看板を読み返した。

   文化会本部。

   ソラはドアノブに手をかけて、ドアをあけた。
 中は意外と広かった。十畳ほどはあろうか。窓が大きいので、もっと広く見える。
 部屋の中には、三人の女子学生がいた。
 もっとも、明窓は女子高なので、学生は女子しかいないけど。
 ソラはドアのところで、どうしていいかわからず、固まったままだ。
「なんの御用ですか?」
 三人の少女はデスクについていた。
 職員室にあるようなスチール製のデスクが、五つ、固めて置かれていた。
 そこだけまるでオフィスのようだった。
 なんの御用?と言った少女はめがねをかけた少女だった。
 胸のリボンをみると青い色。と、するとソラと同じ一年生ってことだ。
 同じ学年だから、話しやすいと思って、ソラはその一年生の少女に向かって話した。
「あ、あの、ここって文化系のサークルのもろもろをやってるところですよね」
「そうよ」
 答えたのは、そのめがねの少女の隣に座っている二年生だった。リボンの色がえんじ色。
 ふわふわっとしたボブヘアで、どこかおっとりした優しそうな雰囲気の先輩だった。
「あなたはどちらのサークルの人?」
「あ、あの、あたしはまだサークルにはいってなくて……」
 あらと、いう顔をその先輩はした。
「じゃあ、どういうご用件かしら?」
「えっと、あの……」
 ふうっとソラは息を吸って、吐いて、吸って。
 そして、言った。
「さ、サークルをつくりたいんです。落研!」


 文化会本部は、文化系サークルを取りまとめている生徒会直下の組織である。
 文化棟とよばれるこのクラブハウスの管理、予算折衝、サークルの管理などが主な仕事である。
 その本部の役員は、この文化棟二階の本部室に放課後には居ることが多い。
 他の部室の倍の広さを持つこの本部室には、各役員がつかうスチールの机のほか、応接セット、書類等がはいっている書棚があり、確かに部室というより、事務所、といった雰囲気だった。  

 新しい部をつくりたい?
 だったら、文化会本部にいけばいいんじゃないかしら。
 ソラは、茶道研究会に所属するクラスメイトのみっちゃんから、そう聞いたので、今日、はじめて文化棟に足を踏み入れたのだった。

  「おちけん……?」
 おっとりした雰囲気のその先輩が、首をかしげた。
「落語研究会のことだと思います、美佐先輩」
 隣に座っていためがねの子が、そう説明した。
「そう、それ!」
 ソラは、上ずった声でそういった。
「いおり」
 その時まで黙っていたもう一人の二年生が、はじめて喋った。
「はいっ!」
 めがねの彼女が立ち上がった。いおりという名のようだった。
 もう一人の二年生は、ストレートのつややかな黒髪で、ずいぶんと落ち着いた雰囲気をもっていた。
「棚の二番目の引き出しから、申請書類3のBを出して」
 立ち上がっていたいおりが、しゅたたとすばやい動きで、自分の背後にあるプラステック製の書類だなの引き出しをあけた。
 そして、クリアファイルを出す。
「どうぞ、椿先輩」
 黒髪の先輩にいおりはファイルを差し出した。
 椿と呼ばれたその先輩は、クリアファイルから一枚だけ書類を取り出し、残りはそのまま、いおりに返す。
 椿は立ち上がって、ソラのほうにやってきた。
 思わず、ソラは後ずさる。
 細面の綺麗な顔をした人だった。
「新設サークル申請書類です。こちらにサークル名、活動内容、活動目的、顧問名を記載して……」
「こ、顧問!?」
 ソラの驚きを気にする様子もなく、淡々と椿は説明を続ける。
「また会長及びそれに準ずる役職に値する発起人名、ほか活動に参加する部員を最低で三名、それらの学年とクラスと氏名を……この時期なので、三年生は引退時期ですから、一年二年生が有効です」
「ささささ三人!?」
「それらを記入の上、申請してください」
 椿はその書類を、ソラに向かって差し出した。なので、ソラも受け取ったが……。
「あ、あのう、一人じゃ……ダメなんでしょうか?」
 ソラはその書類と椿の顔を交互に見比べながら言った。
「それだったら……おうちで笑点をみていればいいんじゃないかしらね……」
 美佐と呼ばれた先輩が、おっとりとした口調で言った。
「ひとりで、部ってのも変ですしね」
 隣のいおりも美佐の言葉に相槌をうつ。
 うぐぐぐ。ソラは口の中でごにょごにょとなにか呟いたが反論はしなかった。
 よく考えたらその通りだったからだ。
「それと……」
 椿が説明を続ける。
「申請したからと言ってすぐに予算などの便宜がはかられるわけではありません。三年ほどの活動が必要」
 ソラは驚いた。
「それじゃ、あたしは卒業してるじゃないですかーー!!」
「そうそう、それに今は空いている部室もないですもんね〜」
 いおりが言った。
 ええっと、ソラはいおりのほうを見た。いおりは腕組みをしてうんうんと一人で頷いていた。
 ががーーーん。
 ソラの心の中は、まさにその言葉が最大に大きくなって浮かんでいた……。

   

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ハルカジクウ